滋賀県で農業法人を設立する手順と費用|近江米農家の法人化メリット
導入:滋賀県の農業と法人化の動き
滋賀県は近畿圏有数の農業県です。水稲の作付面積は近畿1位で、近江米は全国的に知られたブランド米です。コシヒカリやみずかがみなど、高い評価を得ている品種が栽培されています。
こうした恵まれた農業環境の中で、個人農家から法人への転換を考える経営者が増えています。農林水産省のデータでは、全国の農業法人数は約3万法人(2023年時点)で、毎年増加傾向にあります。滋賀県でも同様の傾向が見られ、法人化を検討する農家からの相談が多くなってきました。
GrowUpでは、滋賀県内の農家から「個人から法人に切り替えたいが、何から始めればいいのか」という相談を数多く受けてきました。本記事は、そうした相談の中から得た実務的な知見をもとに、滋賀県の農業法人設立の具体的な流れと費用をお伝えします。
法人化のタイミングを判断する際の重要なポイントについては、「個人事業主から法人化するタイミング」の記事をあわせてご参照ください。
農業法人とは?個人農家との違い
農業法人とは、農業経営を行う法人です。一般的には「農地所有適格法人」として知られています。
個人農家との主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 個人農家 | 農業法人 |
|---|---|---|
| 経営責任 | 個人が負担 | 法人が法的責任を負う |
| 信用力 | 限定的 | 金融機関や取引先からの信用が得やすい |
| 税務申告 | 農業所得の青色申告 | 法人税の申告が必要 |
| 融資 | 農業制度融資が中心 | 一般的な事業融資が利用可能 |
| 農地取得 | 農地の取得に制限あり(農地法) | 法人形態が要件を満たせば農地取得が可能 |
| 従業員雇用 | 家族労働が中心 | 従業員を雇用しやすい |
農業法人化することで、経営の透明性が高まり、事業の継承や拡大がしやすくなります。
農地所有適格法人の4つの要件
農地を所有して農業経営を行う法人として認められるには、4つの要件を満たす必要があります。これを「農地所有適格法人」といい、農地の取得・所有が認められる唯一の法人形態です。
要件1:法人形態
農地所有適格法人として認められる法人形態は次の5つに限定されています。
- 株式会社(公開会社でないもの。定款で株式の譲渡制限を定めている会社に限ります)
- 合名会社
- 合資会社
- 合同会社
- 農事組合法人
滋賀県の農家が選ぶ場合、株式会社と合同会社が一般的です。両者の選択基準については「合同会社vs株式会社」の記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。
要件2:事業要件
その法人の事業収入のうち、農業関連の売上高が過半(50%以上)を占める必要があります。
農業関連の売上には、耕作による農産物の販売だけでなく、農産物の加工・販売、農業用機械のレンタル事業なども含まれます。
滋賀県で近江米を栽培し、販売している場合は、この要件を満たすことがほとんどです。
要件3:構成員(出資者)要件
法人の出資者(構成員)のうち、農業に従事する者の割合が一定以上である必要があります。
具体的には、農業に従事している者が、法人の議決権の過半数を占める必要があります。要件の詳細は農業委員会の指導に従いますが、おおむね出資者の過半が農業者である状態が求められます。
要件4:役員要件
法人の役員の過半数が、農業に従事している人物である必要があります。
これにより、法人が農業経営を主として行う組織であることを担保しています。代表取締役が農業者である場合が多いです。
農業法人を設立する具体的な手順
農業法人の設立は、一般的な会社設立と農地所有適格法人の許可取得の2つのプロセスに分かれます。
ステップ1:事前準備と農業委員会への相談
法人設立を決めたら、最初に地域の農業委員会に相談することが重要です。滋賀県の場合、各市町村の農業委員会のほか、一般社団法人 滋賀県農業会議内の滋賀県農業経営相談所でも法人化の相談が可能です。
相談時には、以下の内容を決めておくと良いでしょう。
- 法人の商号(会社名)
- 法人形態(株式会社か合同会社か)
- 資本金の金額
- 役員の構成
- 事業内容と経営規模
- 農地の所有・借地計画
ステップ2:定款の作成と認証
株式会社の場合、定款を作成した後、公証人役場で認証を受ける必要があります。合同会社の場合、認証は不要です。
株式会社の定款に必ず記載しなければならない項目は次のとおりです(合同会社の場合は「社員の氏名・住所」「社員全員が有限責任社員である旨」「出資の目的と価額」などが必須項目になります)。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名(名称)と住所
- 発行可能株式総数(設立登記までに定めます)
ステップ3:設立登記と農地所有適格法人の届出
定款の認証(株式会社の場合)を受けたら、法務局に設立登記申請を行います。登記が完了すると、法人が成立します。
同時に、農業委員会に「農地所有適格法人の届出」を行う必要があります。農業委員会が要件を確認した上で、農地の取得や所有が可能になります。
ステップ4:農地の取得と事業開始
届出が受理されたら、農地を取得して事業を開始することができます。
設立後は、「会社設立後すぐにやるべき税務・経理の準備リスト」を参考に、税務署などへの税務の届出(8種類)と、年金事務所や労働基準監督署などへの労務の届出(8種類)を進めてください。とくに社会保険の届出は設立から5日以内と期限が短いため、登記が完了したらすぐに着手してください。
設立にかかる費用の目安
農業法人の設立費用は、法人形態によって異なります。
株式会社の場合
株式会社は17万〜21万円程度が費用の目安です(電子定款の場合。紙の定款なら印紙代4万円が加わります。資本金の額によって変動します)。
- 定款認証:資本金に応じて1万5千円〜5万円(公証人役場)
- 登録免許税:資本金の0.7%(最低15万円)(法務局)
- 登記申請手数料:0円(法務局)
- 印鑑証明書等取得:5,000円程度
- その他実費:3,000~5,000円程度
合同会社の場合
合同会社は約7万円程度と、株式会社より費用が抑えられます(電子定款の場合。資本金の額によって変動します)。
- 定款認証:不要
- 登録免許税:資本金の0.7%(最低6万円)(法務局)
- 登記申請手数料:0円(法務局)
- 印鑑証明書等取得:5,000円程度
- その他実費:3,000~5,000円程度
専門家に依頼する場合の費用
自力での手続きが難しい場合は、専門家に依頼することもできます。依頼できる内容は資格によって決まっており、設立登記の申請を代理できるのは司法書士です。税理士や行政書士が登記を代理することはできません。行政書士は定款の作成や電子定款の認証代理まで、税理士は設立後の税務の届出を担当します。
登記まで司法書士に依頼する場合、報酬は5~10万円程度が目安です。なお当社では、会社設立のサポート手数料はいただいておりません。登記と定款認証の手続きは、提携の司法書士をご紹介しています。
ただし、専門家に依頼すれば手続き漏れや書類不備のリスクが減り、迅速に進められるメリットがあります。
滋賀県で利用できる創業融資については「滋賀県で使える創業融資まとめ」をご参照ください。法人設立に必要な資金を融資で調達する方法について詳しく解説しています。
農業法人にすることで得られる税務メリット
農業法人化による最大のメリットは税務面にあります。以下の3つが代表的です。
1. 所得の分散による節税
個人農家では、農業所得がすべて経営者個人の所得になります。これに対して法人化すれば、所得を法人と個人で分散させることができます。
あくまで目安としての例ですが、年間農業所得が800万円の個人農家が法人化した場合、経営者本人の給与を400万円、法人の利益を400万円に分散させることができます。累進課税の影響を受けにくくなるため、全体的な税負担が軽くなる傾向があります。ただし、実際の節税額は各種控除や社会保険料の負担増なども含めて総合的に判断する必要があります。
2. 農業経営基盤強化準備金制度の利用
農業法人は「農業経営基盤強化準備金制度」などの税制上の優遇措置を利用できます。なお、この制度は青色申告をしている認定農業者などであれば個人でも利用できるため、法人化によってはじめて使えるようになる制度ではありません。
これらの制度を活用することで、農機具の購入やハウス建設などの大型投資時に、税負担を軽減できます。
3. 消費税の仕入税額控除
消費税の納税義務は、所得の大きさではなく基準期間(原則として2期前)の課税売上高で判定し、1,000万円を超えると課税事業者になります。新しく設立した法人には基準期間がないため、資本金1,000万円未満などの要件を満たせば、設立から一定期間は納税義務が免除される余地があります(インボイス登録をする場合は、登録の日から課税事業者になり、仕入税額控除を受けられるようになります)。
まとめ
滋賀県で農業法人を設立することは、近江米などの農産物を生産する農家にとって、経営の安定化と成長を実現する重要な選択肢です。
農地所有適格法人の4つの要件(法人形態、事業要件、構成員要件、役員要件)さえ満たせば、農地の取得・所有が可能になり、経営の幅が広がります。
設立費用は電子定款を使えば株式会社で17万〜21万円程度、合同会社で7万円程度と、そこまで大きな負担ではありません。その一方で、所得分散による節税や各種制度の利用など、税務メリットは非常に大きいものです。
設立手順としては、農業委員会への相談から始まり、定款作成、法務局への登記、農地所有適格法人の届出という流れが標準的です。わからない部分は、滋賀県農業経営相談所や専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
個人農家のまま経営を続けるか、法人化するかの判断に迷われている場合は、経営規模や今後の事業計画をふまえて、専門家に相談した上で決めてください。
