会社設立するなら家族を役員にするべき?「みなし役員制度」
役員の給与や賞与の損金算入には厳格な要件があるため、「家族を役員にしないでおこう」と考えるかも知れません。
しかし、家族従業員は「みなし役員」にあたる可能性があるため注意が必要です。
目次
法人から家族に支払う給与は損金になる?
家族を役員にすべきかどうか、税務の面から考えたとき、その家族に支払う給与や賞与が「損金」に算入できるかどうかを考えることが大切です。
個人事業主の時は、給与を支払う相手が、まず「生計を一にする配偶者や親族」か「それ以外」かで考える必要がありました。
前者については、給与を経費にするために「青色事業専従者給与に関する届出」を提出していたケースが多いと思います。
では会社を設立するとどうなるかというと、家族かどうかではなく、まず「役員」か「使用人」(=従業員)かで考えます。
「使用人」に支払う給与や賞与は損金に算入されますが、「役員」に支払う給与や賞与には注意点があります。
役員給与等を損金に算入するには
役員に対し、給与や賞与を好き勝手に支払っても、損金には算入されません。
給与や賞与を損金に算入するには、
・支給の方法
・支給する金額
の2つに注意する必要があります。
損金に算入するための支給方法
損金に算入するには、次のいずれか1つを満たす方法で支給する必要があります。(法人税法第34条第1項)
・定期同額給与
・事前確定届出給与
・業績連動給与
中小企業では、毎月同額の「定期同額給与」を支給しながら、それ以外に賞与を支払いたい場合に税務署に事前の届け出を必要とする「事前確定届出給与」の提出を検討することが一般的になると思います。
ただし「事前確定届出給与」を利用するには厳格な手続きが待っていますので、役員に対して賞与は支給しないという会社もたくさんあります。
損金に算入するための支給額
たとえ支給方法が要件にあてはまっていても、そのうち、不相当に高額な部分があれば、その部分は損金に算入されません。(法人税法第34条第2項)
給与が不相当に高額であるかどうかは、その職務の内容や法人の収益、使用人に対する給与の支給状況、同種同規模の他社の支給状況、定款や株主総会の決議で定められた限度額などから判断されます。(同法施行令第70条第1項第1号)
なぜ「損金不算入」のルールがあるのか
役員報酬を損金に算入するために厳しいルールが設けられている理由は、会社の利益操作を防止するためです。
いつでも好きな額を役員に支払い、それを損金に算入できてしまうと、利益が増加しても、それをすべて役員の懐に入れてしまえば税金は上がりません。
このような利益操作が行われないよう、法律で決められた方法で支給したものと不当な金額でないものしか、損金に算入できないルールになっているのです。
家族従業員はみなし役員に注意
「そんなに面倒なら使用人として支給すればいい」と思ってしまいそうですが、家族従業員は「みなし役員」にあたる可能性があるため注意が必要です。
みなし役員とは
会社法上の役員は、取締役、会計参与、監査役などですが、法人税法上の役員には、これらに「みなし役員」が加わります。
「みなし役員」に該当すると、役員として登記されていない人物であっても、その給与や賞与は、前述の要件を満たさない限り損金に算入できません。
「みなし役員」とは、
・使用人以外の者で、その法人の経営に従事しているもの
・同族会社の使用人のうち、一定のもの
を指します。(法人税法施行令第7条)
家族従業員で注意が必要なのは、後者の要件になります。
使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの
職制上使用人としての地位のみを有する者(例:営業所長、主任など)以外の者のうち、その職務内容などから実質的に法人の経営に従事していると認められる者のことです。
同族会社の使用人のうち、一定のもの
同族会社の使用人のうち、
・一定の株式所有割合要件を満たしているもの
・その会社の経営に従事しているもの
のことです。
まず「同族会社」とは、株主間の特殊関係(親族関係など)で株主をグループ分けしたとき、上位3グループで会社全体の50%を超える株式や議決権等を保有する会社のことです。
中小企業の多くが同族会社にあたると考えられます。
「一定の株式所有割合要件」とは、使用人が所属する株主グループや使用人個人の持ち株比率などから判定されます。
判定方法の詳細は省略しますが、保有する株式等の比率が配偶者との合計で5%を超える使用人 は注意が必要です。
「その会社の経営に従事している」とは、経営方針に参画していることを指します。
これらの要件から、家族を使用人としてごまかそうとしても、家族経営の会社の場合、社長の配偶者など家族従業員は、みなし役員にあたるケースがあるのです。