資本金1円で起業するリスクとは?資本金のポイントを解説
資本金1円で会社を設立することは、誰でも理論上は可能です。実際に少額資本金の手軽さやコスト削減効果に惹かれてチャレンジする人も増えています。一方で、こうした選択には実務上の注意点やリスクも存在します。本記事では、1円起業のリスクを中心に具体的な活用場面について確認しましょう。
目次
1円起業にともなう5つのリスク
2006年の会社法改正により、最低資本金制度が撤廃され、理論上は資本金1円でも株式会社の設立が可能になりました。しかし、この手軽さの裏には、事業を継続していく上で見過ごせない5つのリスクが潜んでいます。
1:社会的信用力の低下と取引への影響
資本金は会社の体力を示す指標の1つと見なされます。資本金額は登記事項証明書(登記簿謄本)で誰でも確認できるため、資本金が1円であることは、取引先や顧客に「経営が不安定なのではないか」「支払い能力に問題はないか」といった不安を与えかねません。
結果として、新規取引を敬遠されたり、現金取引を求められたりするなど、ビジネスの機会損失につながるリスクがあります。
2:資金調達・融資における不利な状況
創業間もない会社が金融機関から融資を受ける際、事業計画と共に自己資金の額(資本金も含まれる)が返済能力を判断する重要な基準となります。資本金が極端に少ないと、事業に対する本気度や計画性を疑われ、融資審査で不利になる可能性が高まります。融資が受けられないと、設備投資や事業拡大のチャンスを逃し、経営の足かせとなる恐れがあります。
3:法人口座の開設や許認可申請のハードル
資本金が著しく低いと、マネーロンダリングや詐欺に使われるリスクを懸念され、法人口座の開設審査が厳しくなることがあります。金融機関によっては、口座開設を断られるケースも少なくありません。
また、建設業や人材派遣業など、特定の業種では事業を行うために許認可が必要であり、その要件として一定額以上の資本金が定められています。例えば、一般建設業許可では500万円以上の自己資本が要件の1つとされています。
4:債務超過に陥りやすい経営体質
資本金は、会社設立時の運転資金として使われる自己資本です。資本金が1円の場合、設立にかかる登録免許税などの諸費用(株式会社で最低15万円程度)を支払った時点で、帳簿上は即座に債務超過(会社の負債が資産を上回る状態)となります。
債務超過は金融機関からの評価を著しく下げ、融資を受けることを一層困難にします。
5:採用活動への悪影響
求職者が企業を評価する際にも、資本金は会社の安定性を測る一つの指標となります。資本金が極端に少ないと、「給与の支払いは大丈夫か」「長く働ける会社なのか」といった不安を抱かせ、優秀な人材の獲得が難しくなる可能性があります。
1円起業のメリット2つと現実的な活かし方
5つのリスクがある一方で、資本金を少額にすることにはメリットも存在します。リスクとメリットを正しく理解し、どのような場面で有効活用できるのかを知ることが重要です。
1:起業初期コストを最小限に抑えられる
メリットの1つ目は、会社設立時の初期費用を抑えられる点です。自己資金が少ない場合でも、法人格を取得して事業をスタートできるため、起業へのハードルは大きく下がります。
2:登録免許税・税負担を抑えられるメリット
会社の設立登記には登録免許税が必要です。この税額は資本金の額によって決まります。資本金が低いほど登録免許税を低く抑えられます。
また、資本金が1,000万円未満の場合、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除される可能性があります(適格請求書発行事業者を除く)。
さらに、法人住民税の一部である「均等割」も資本金額に応じて税額が変わるため、資本金を低く設定すれば節税につながる場合があります。
1円起業が有効な4つの事業
1円起業は、以下のような特定のケースで有効な選択肢となり得ます。
- 初期投資がほぼ不要な事業: Webデザイナー、ライター、コンサルタントなど、元手となる設備や仕入れが不要な事業。
- 売上がすぐに見込める事業: 設立後すぐに売上が立ち、運転資金を確保できる見込みがある場合。
- 許認可が不要な業種: 事業開始にあたり、資本金要件のある許認可が必要ない場合。
- 対外的な信用が不要な事業: 取引先が限定的であったり、個人顧客が中心であったりするなど、資本金の額がビジネスに影響しにくいケース。
まとめ
法律上は1円で起業可能ですが、実際には多くのリスクが伴います。特に「信用」が重要となるビジネスにおいては、極端に低い資本金は避けるべきです。
適切な資本金額に決まった答えはありませんが、1つの目安となるのが「初期費用 + 3ヶ月〜6ヶ月分の運転資金」です。設立後すぐに利益が出なくても事業を継続できるだけの資金を資本金として準備しておくことが、安定した経営の第一歩となります。
1円起業はあくまで「可能」というだけであり、多くの事業にとっては現実的な選択肢ではありません。自身の事業計画を慎重に検討し、必要な資金をしっかりと見積もった上で、適切な資本金額を設定することが必要です。